英語多読でライティングが上手くなる? 過去の研究から考える
英語で多読をしよう!という話を聞いたことがある方は多いと思います。僕自身も、中三の時に英語多読と出会い、ドハマりして今に至ります。
ふと、「多読って、まあ読む力はつきそうだけど、他のスキルにも効果あるのかな?読んでるだけなのにライティングとかスピーキングの力がついたりしたら面白いよな。」
と思ったので、このテーマに関する過去の研究を調べてまとめることにしました。
まず、全体的な結論から言うと、多読学習を行うことでライティングの能力が向上すると言えそうです。
ここでみなさんが気になるのは、
1)多読と言っても何をどれくらいの期間にどれだけ読めばいいの?
2)ライティングのどういう能力が向上するの?
という点だと思います。
では、これらの点が研究ではどうなっているのか、見ていきましょう。
1)多読の量
① 何を読むか
今回参考にしたすべての研究で、Graded Readers が使用されていました。
これは、主にイギリスの出版社や大学が学習者向けに出版している英語の読本で、Starters と1~6までのレベルに分けられています。自分に合ったレベルで興味のあるストーリーを読むことができる、とても良い教材です。
Graded Readers はこちら↓
Oxford Bookworms Library | Oxford University Press
② 多読の時間
では、Graded Readersなどの読み物をどれくらい読めばよいのでしょうか。
読書の時間とライティングの成績との関係を調べた研究(Janopoulos, 1986)があります。アメリカの大学で英語を学ぶ留学生79人に、週何時間、英語で読書をするかを尋ねるアンケートを取ったところ、週5時間以上の読書を行う学生はよりライティング能力が高い傾向にあることが分かったとのことです。
他の研究では、多読を行ったグループと普通の授業を受けたグループとの成績を比較しています。生徒が多読を行った時間は以下の通りでした。
12週間で42時間(Hafiz & Tudor, 1989)=3.5h/週
23週間で90時間(Hafiz & Tudor, 1990)=3.9h/週
4週間で25時間、平均14冊(Lai, 1993)=6.3h/週
24週間で8冊(Tsang, 1996)=不明
30週間で25時間(Lee & Hsu, 2009)=50min/週
半年(16回)で12時間、16-19冊(Lee & Schallert, 2015)=0.75h/週(学期中)
16週間で4時間(Park, 2015)= 15min/週
12週間で約5時間(木村、2013)= 20-30min/週
これはかなりばらつきがあります。週15分ってそれ多読と言わないでしょ!と突っ込んでしまいました。
しかし、これらの研究では全てライティングの成績に向上が見られたという結果になっています。理想ははじめの研究が示す週5時間前後かそれ以上といったところだと思われますが、少しの量でも継続して読めばそれなりに効果はあるということなのかもしれません。
③ 読む量
今回見た研究では、どれだけの量を読んだのかということはあまり記されていませんでした。
データがあった中では、
4週間で参加者の平均14冊(Lai, 1993)
24週間で8冊(Tsang, 1996)
週1回を1年間で16~19冊(Lee & Schallert, 2015)
12週間で参加者の平均47.6冊、52,600語(木村、2013)
となっています。これはばらつきが大きくて何とも言えませんね。
一冊当たりの語数も不明なので、何もわかりません。
個人的な経験からは、これらの研究よりも多く読むべきだとは思います。
2)向上するライティングの能力
これもいくつかの研究で詳しく調査されています。
① 流ちょうさと文法等の正確さ(Tudor & Hafiz, 1989; Hafiz & Tudor, 1990)
② 主張の明快さと言葉の使い方(Tsang, 1996)
③ 主張の明快さ、論理構成、語彙、言葉の使い方、文章のルール、流ちょうさ
(Lee & Hsu, 2009; Park, 2015)
ばらつきはありますが、文法の正確さや文脈にあった言葉の使い方、さらに流ちょうさにおける向上は共通していると言えそうです。
より正確な文がスラスラと出てくる、そんな理想の状態に近づくことができますね。
いかがでしょうか。今回は、英語の多読でライティング能力が向上するのかどうかに注目しました。今まで行われた研究ではライティング能力が向上すると言えそうですが、何をどのぐらい読めば良いのかというところがはっきりしません。
まだまだ手薄な分野なので、今後の研究に期待です。
では、このへんで。
*今回は、第二言語習得や教授法の主なジャーナルで最新のものを検索し、そこから芋づる式に過去の研究を探す方法で論文を集めました。参考にした論文は12本、本記事で紹介したのは10本です。
参考文献
木村啓子. (2013). 「授業内英語多読の試みと英語ライティング力の変化: 日本人大学生の場合」『 尚美学園大学総合政策研究紀要, 22, 17-30』.
Elley, W. B., & Mangubhai, F. (1983). The impact of reading on second language learning. Reading research quarterly Vol. 19, No. 1, 53-67.
Hafiz, F. M., & Tudor, I. (1989). Extensive reading and the development of language skills. ELT journal, 43(1), 4-13.
Hafiz, F. M., & Tudor, I. (1990). Graded readers as an input medium in L2 learning. System, 18(1), 31-42.
Janopoulos, M. (1986). The relationship of pleasure reading and second language writing proficiency. TESOL quarterly, 20(4), 763-768.
Lai, F. K. (1993). The effect of a summer reading course on reading and writing skills. System, 21(1), 87-100.
Lee, J., & Schallert, D. L. (2015). Exploring the Reading–Writing Connection: A Yearlong Classroom‐Based Experimental Study of Middle School Students Developing Literacy in a New Language. Reading Research Quarterly, 51(2), 143–164.
Lee, S. Y., & Hsu, Y. Y. (2009). Determining the crucial characteristics of extensive reading programs: The impact of extensive reading on EFL writing. The International Journal of Foreign Language Teaching, 5(1), 12-20.
Mason, B., & Krashen, S. (1997). Extensive reading in English as a foreign language. System, 25(1), 91-102.
Park, J. (2015). Integrating reading and writing through extensive reading. ELT Journal, 70 (3), 287-295.
Tsang, W. K. (1996). Comparing the effects of reading and writing on writing performance. Applied linguistics, 17(2), 210-233.
Tudor, I., & Hafiz, F. (1989). Extensive reading as a means of input to L2 learning. Journal of Research in Reading, 12(2), 164-178.